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「バッタを倒しにアフリカへ」あらすじと感想

バッタを倒しにアフリカへ


バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

一人のバッタ博士がアフリカでバッタと、いや人生と格闘する話。本屋で偶然手に取り読んだ本だが、めちゃめちゃ面白い本だった。読売文学賞中央公論・新書大賞、絲山賞受賞を受賞した作品。

あらすじ

著者は、昆虫学者への憧れとバッタへの狂気的な愛を持つ一方、今後の研究者としての身の振り方に悩む若きバッタ大好きのポスドク。彼は、自分の人生を切り開くため、また農作物を食い荒らし国を荒廃させるバッタを退治するために、単身アフリカ・モーリタニアへ渡る。彼は、待ち受ける数々の困難を、情熱と努力と創意工夫、そして何もりも、人との出会いで乗り越えて行く。「神の罰」と恐れられるバッタたちを、彼は倒すことができるのか。若き昆虫学者の奮闘を綴った一冊。

前野 ウルド 浩太郎(まえの・うるど・こうたろう)さんに関して

昆虫学者(通称:バッタ博士)。
1980年秋田県生まれ。国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター研究員。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(農学)。京都大学白眉センター特定助教を経て、現職。アフリカで大発生し、農作物を食い荒らすサバクトビバッタの防除技術の開発に従事。モーリタニアでの研究活動が認められ、現地のミドルネーム「ウルド(○○の子孫の意)」を授かる。著書に、第4回いける本大賞を受賞した『孤独なバッタが群れるとき――サバクトビバッタの相変異と大発生』(東海大学出版部)がある。
出典元:「バッタを倒しにアフリカへ」講談社新書

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バッタ大好きで、昆虫博士になるのが夢だそう。でもバッタ触りすぎてバッタアレルギーになってしまった、という序盤のくだりから笑える。笑。

感想

とにかく笑いながらスイスイ読める

とにかく、言い回しが面白い。新書にしては厚めな本なのだが、スイスイ読める。

ティジャニはスピード狂だった。目の前に立ちはだかる遅い車には、容赦なくクラクションを浴びせ、モーゼのごとく進路を開いていく。
出典元:「バッタを倒しにアフリカへ」講談社新書

いきなりモーゼ出てきてワロタ。こういう細かい笑える言い回しが随所に散りばめられていて、テンポよく読み進めることができる。ティジャニは現地での移動・その他生活諸々をサポートしてくれているモーリタニア人の相棒。

もともとは微糖派だったが、朝飯初日、手元に砂糖がなかったのでブラックで飲んだところ、ティジャニが「コーヒーに砂糖を入れずに飲むなんて信じられない」と尊敬のまなざしで私を拝んできた。なので、その日以降、大人の威厳を見せつけるために、コーヒーはブラックで飲むことにした。新しい環境に来たので、舐められてはいけない。
出典元:「バッタを倒しにアフリカへ」講談社新書

ティジャニとの関係も笑えて楽しい。

私とティジャニが通訳なしでずっと一緒にいることに、研究所の誰しもが不思議に思っていた。急速に意思の疎通ができるようになった仕組みはこうだ。一つの単語に複数の意味を持たせて使い回していたのだ。  例えば「ファティゲ」。これは「疲れた」という意味で使われている。 「車がファティゲ」。これはガソリンがなくなりつつあることを意味する。 「頭がファティゲ」。これは悩み事があって心労したときに使う場合と、ハゲを意味する場合がある。「頭がファティゲなモハメッド」など人物を特定するときに便利だ。 「腹がファティゲ」。これは食べ過ぎてお腹いっぱいを意味する。  また、「超」をつけたい場合は「ボク」を使う。「ボクファティゲ」。これは「疲れたがたくさん」、すなわち「超疲れた」となる。
出典元:「バッタを倒しにアフリカへ」講談社新書

ティジャニは英語が話せない。ファティゲのくだりは、移動中の電車で声出して笑った。笑。

そうこうスイスイ読んでいるうちに、サバクトビバッタの生態からモーリタニアの生活・文化、はたまた研究者の苦悩から東北弁の雑学まで、様々ものを垣間見ることができる。

サバクトビバッタとは

著者が研究の対象としているサバクトビバッタは、アフリカの半砂漠地帯に生息し、しばしば大発生して農業に甚大な被害を及ぼす。時に国を脅かすため、バッタの大発生は、「神の罪」として恐れられている。

私が研究しているサバクトビバッタは、アフリカの半砂漠地帯に生息し、しばしば大発生して農業に甚大な被害を及ぼす。その被害は聖書やコーランにも記され、ひとたび大発生すると、数百億匹が群れ、天地を覆いつくし、東京都くらいの広さの土地がすっぽりとバッタに覆い尽くされる。農作物のみならず緑という緑を食い尽くし、成虫は風に乗ると一日に100 km 以上移動するため、被害は一気に拡大する。地球上の陸地面積の 20%がこのバッタの被害に遭い、年間の被害総額は西アフリカだけで400億円以上にも及び、アフリカの貧困に拍車をかける一因となっている。
出典元:「バッタを倒しにアフリカへ」講談社新書

ちなみに、バッタとイナゴは相変異を示すか示さないかで区別されている。相変異を示すものがバッタ(Locust)、示さないものがイナゴ(Grasshopper)と呼ばれる。日本では、オンブバッタやショウリョウバッタなどと呼ばれるが、厳密にはイナゴの仲間である。Locustの由来はラテン語の「焼野原」だ。彼らが過ぎ去った後は、緑という緑が全て消えることからきている。
出典元:「バッタを倒しにアフリカへ」講談社新書

日本にいると、バッタはなんとなく小さくて可愛いようなイメージだが、砂漠地帯ではこんなに恐ろしい存在だとは。

この本の魅力

この本の魅力は、著者が自分の夢に向かって、好きなことに邁進するその姿にある。また、その夢に向かう途中で、たくさんの素晴らしい人々と出会っていくところも、大きな魅力の一つ。読み進めるたびに、筆者の姿勢や、人との出会いに、心が揺さぶられる。読後は、本気で夢に向かうことの素晴らしさを感じられる。

若い人なんかには特にオススメの一冊。バッタに興味なくても、楽しく読めて、かつ心に残るものが多い一冊。


バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)